グッズで見つけた商品を仕入れ、販売している店舗やサロン、ECサイトのバイヤーさんへのインタビュー企画第二弾は、文教地区として名高い国立に2023年に誕生した【書店有給休暇】オーナーのナカセコエミコさんにお会いしてきました。
JR国立駅からほどよく歩いた先にあり、ずっとこの街にあったかのような本屋さんの中は、ナカセコさんが目指した「本」だけではない理想の空間です。
初めて来たにもかかわらず、久しぶりに訪れたような懐かしさが漂う店内で、出店に至るまでの道のり、扱う本やアイテムへのこだわり、お客様を居心地よくするための工夫などのお話をたっぷりうかがいました。
《店舗情報》
書店有給休暇
東京都国立市中2-3-2
営業時間:13:00-18:00(月火・定休)
Instagram @bookfilage
ネット書店「働く女性のための選書サービス季節の本屋さん」を運営する書評家・絵本作家のナカセコエミコ氏(株式会社FILAGE)が運営する実店舗。
コンセプトは、「有給休暇の日に行きたい本屋」。忙しい人たちの日常に寄り添い、ビジネスやライフスタイルなど次の一歩を踏み出せるヒントのつまった本や非日常が味わえる小説、絵本が並び、さながら本のセレクトショップ。目当ての本がなくても、気になる本がきっと見つかります。
窓際にはカウンター席が設けられ、ここでお茶をしたり、夏はアイスを食べたりと、本と一緒にくつろげる空間になっています。
本や絵本以外にも、「がんをデザインする」をテーマにQOLデザインに取り組んでいるナオカケルのアパレル商品をはじめ、女性作家のアクセサリーやお菓子など様々なアイテムが揃います。週末には読書会などのワークショップ、3週間ごとにパネル展を行うなど、いくつもの表情を持ち、本好きだけでなく様々な人々を引き寄せています。
何よりも、「本の場所を整えて、来る人の話し相手になりたかった」と話すナカセコさんはまさに聞き上手。”本が好き”という共通点を軸にいつまでも話し続けていたくなるような、居心地の良いお店の魅力をじっくりご紹介します。
目指したのは”有給休暇”の日に行きたくなる本屋
本好きなら誰もが憧れる図書館司書の資格を持ち、一度はその職についたナカセコさん。その後、一般企業に軸足を移し、商品開発などの仕事に約20年携わり、管理職も経験しています。
「母校に3階建ての大きな図書館があり、今考えるとまだ20代ぐらいの若い女性の司書の先生がいました。女子校の色んな生徒がいる中で、その方は先生というのでも友達というのでもない、ちょっと知的なお姉さんという風な存在でいつも気軽にお喋りしていて、『こういう感じいいな。本の場所を整えて、人の相談相手になったりとか、そういう仕事がいいな』というのが最初のきっかけです。」
「でも、私がなった公立図書館司書は学校司書とは異なり、利用者と話す機会もほとんどなかったため、長くは続けず会社員になり、管理職にもなりました。」
店内の本棚は、働き方、生き方、暮らし、健康、衣食住、旅行など様々なジャンルの本が緩やかにゾーニングされ、ナカセコさんの好きな韓国文学や日本の小説、絵本などなど、「半数以上が自宅にもあるもの」と、話す、ナカセコさんが選び、共感した本が並んでいます。
店内で扱うアクセサリーや雑貨も女性作家のアイテムが多く、女性への包み込むようなエンパワメントを感じます。
「自分がしてほしかったんですよ(笑)当時は、女性の管理職を増やそうという時代で、上の世代と同時に管理職になったため、お手本がない状態です。だけど、男性と同じように結果は出さなくちゃいけない。どうしたらいいか本当に分からなくて、ビジネスの本をたくさん読むようになりました。学生の頃は、何か面白い本がないかを本屋に探しに行っていたけど、仕事の困りごとがあるから本を探す、そもそも本屋に行く時間もない、選ぶ余力もない状態でした」
「よく出張に行く前に駅ナカのブックカフェに立ち寄っていたんです。15分コーヒーを飲んで、ヘアゴムか何かを買ってちょっと一瞬、素の自分に返って、また本来の役割に戻る。そうやって、少し休んでまた頑張ろうと思える場所、一人で来た人がぼんやりできるスペースを作りたいなと思って、コーヒーやお茶を飲めるカウンターを作りました」
ナカセコさんが物件を借りる決め手としたのは、カウンター前の大きな窓。実は、元々のイタリアンブティックでショーウィンドウとして使われており、アクセサリーのショーケースや棚など、使えるものはそのまま使い、新たに持ち込んだ家具も、アンティークのものなど使い込まれたものが中心です。そのため、オープンしてまだ1年ですが、すでに何年もこの街にあったかのように馴染んでいます。
「お店のイメージソースは映画『ユー・ガット・メール』に出てくる小さな児童書専門店です。国立付近でずっと物件を探していてぽこっと出てきたのがここでした。窓の大きさも扉の位置もイメージ通りですぐに決めました。」
「国立は商店街があり、人が住むところ。雑貨店やカフェなどめぐるところに一体感があり、大学や学校が多いので学ぶことや本に興味のある人も多く、”ある程度おとなの女性がのんびりできると雰囲気”という条件にもぴったりでした」
オープン1年目は、ネット書店「季節の本屋さん」のファンの方が多く来店されたそうですが、最近は近隣の方やSNSを見て来られる方も多いそう。
「1年目は、それこそ『有給休暇取ってきました!』といって、全国から色んな方がいらっしゃいました。そういう方たちは、まず本を目当てにしてくださっていて、本とアクセサリーや本とお菓子といった組み合わせで買って行かれます。」
「近隣の方の目的は色々。コーヒーだけ飲みに来て15分だけたわいもない話を喋って帰る人、いつもお菓子だけ買う人、ギフトを選ぶ人、ガチで仕事をする人。編み物をしている方もいますよ(笑)」
人が集う場所としての「書店有給休暇」
現在、店舗内の壁の一面を使って本屋ライター・和氣正幸さんの新刊『改訂新版東京わざわざ行きたい街の本屋さん』パネル展が開催中です。もちろん「書店有給休暇」も紹介されています。
「10月に著者の和氣さんを招いて出版記念トークイベントをさせていただいて、そこからパネル展もやろうというお話になりました。展示会やワークショップは、お客様からの要望で企画することもあれば、作家さんがこういうのをしたいというものもあります。そういう場所を目指していることは変わりませんが、お店のコンセプトにはまらないことはやらないです。大人の女性や、男性でも、”頑張っている方が一息つける”ということを大事にしています」
ワークショップの参加者は女性が中心で、年代はバラバラ。30代のママさんもいれば、いつも孫を預かっていて自分の時間があまりないという70代の方も来られるそうです。
「一定数の方が本・絵本が好き。そして、仕事してるしてないに関わらず、皆さんものすごく忙しい。だけど、何とかお子さんを預けてきましたとか、このために時間を作ってきたと言ってくださいます。そういう方々にも、『自分は本当はこういうことをやりたい』という想いが大小あって、ワークショップで他の方とお喋りすることで『やってみたいことを始めようと思った』と、次の一歩のきっかけになっているのを見るのは嬉しいですね。」
お店で扱う商品は、少し癒しを感じるもの、すきま時間にちょっとほっとできるものをナカセコさんがセレクトしています。2年目に入り、本以外の商品を求める方が増えてきたところからまずはお菓子の取り扱いを増やし、そこからグッズとの出会いに繋がりました。
「なんで置いてあるのかよく分からないものは置かないようにしています。健康・美容の観点でも有害なものが入っていない、気分が上がるパッケージデザインのものを探しています。どれだけ効果効能がよくてもパッケージが気に入らないと買わないじゃないですか。
作家さんのアイテムは『その方の作品を知ってほしい』という気持ちもあります。」
「書店界隈はまだ男性が多く、先輩方に『なんでこっちの棚にも本を置かないの?』と、言われることもありますが、色んなテイストのものがあり、お客様が楽しめることが大事だと思っています。だから、雑貨やお菓子はマスト。今夏は、小さなアイスクリームが大好評でした。」
好評だったアイスクリームのアイデアは、他店でプリンやアイスキャンディーが人気だと聞き、「有給でやるならどんな感じになるだろう」と考えたのがきっかけだそう。
「アイスクリームはだいぶ探しました。綺麗で美しいものが好きなお客様が多いので、ものすごい高級じゃないけど少しブランド感があるもの。たくさん食べるんじゃなくて、少量で満足できて手の届きやすい価格のものがいいなと、グッズで見つけた”shirokane sweets TOKYO”を選びました」
「グッズには、お洒落でこだわって作っているブランドが多いので、他にもお菓子や雑貨を仕入れています。お客様が好きそうなものをなるべく色々と仕入れるようにしていますが、あまりロットが大きいと難しいので1つから買えるものがあるのは嬉しいですね。」
基本は本を目当てに来られるお客様も多いため、それ以外の商品が高くなりすぎないように価格帯も意識されています。
「本が一冊1500円ぐらいするので、あれもこれも手に取った時にとんでもない金額にならないように気をつけています。アクセサリーも極端に高額なものは置かず、それなりに働いている人であればちょっとしたご褒美で買えるという値段のものを扱っています。」
本も商品も、自分の直観と感覚を信じて自分と同じようなどなたかに届ける
ネット書店のほうでは、毎月ナカセコさんが選んだ本が届くサービスがあり、毎回「この本で大丈夫かな」と悩まれるそうですが、最後には自信を持って仕入れるように心がけられています。
「選書サービスは”働く女性向け”です。対象をニッチにしすぎないほうがいいかなとか不安になることもありますが、『いや、自分と同じ悩みを持つ方は必ずいる。いない訳ない!』と、自分で”これ!”と決めたことに最後は自信と責任を持つようにしています。」
「本も商品も自信を持って仕入れて、それでお客様がいらしたら『こういうところがいいんです』というのを、自分の体感を持って話すとちゃんと共感してくださる方がいる。作っている方の努力、グッズに掲載されるまでの努力。ペラペラ喋るのではなく本当に思っていることを真摯に話すとちゃんと伝わる気がします。」
おとぎ話のようなドラマが日々紡がれるお店
書店有給休暇の入り口のドアは、真夏と真冬以外は基本的に開けっ放し。誰でも通りからふらりと入れるので、時々、散歩中のワンちゃんが飼い主を引っ張って入って来ることもあるそうです。
「ある時、幼稚園の女の子が一人で『お邪魔していいですか?』と言って入ってきて、店内を見て回って『今日は持ち合わせがないので今度また来ます』とか言って、びっくりしましたけど、私も『待ってますね』と言ってその日は終わって。そうしたら後日、私がいない日にまた一人でやってきて、お母さんへのプレゼントを買うんだって計算機も持ってきて、ボールペンやノートを計算しながら選んで買って行ったんです。」
そんな、絵本のようなストーリーが本当に起こるのも「書店有給休暇」の持つ特別な魅力のひとつ。大きな本屋さんでは味わえない、”街の本屋さん”ですごすひと時を求めて多くの方がリピーターとなっています。
話の合間に、時折、掛け時計がボーンと鳴ります。
「実は時計の時刻は全然合っていません。空気を読むので、時々、店内の会話などに共感した時に鳴るんですよ(笑)」