「ハーブティーって、こんなにボタニカルな見た目をしているんだっけ……?」
前々から気になっていたハーブ農園ペザンのハーブティー。ティーバックの中には、まるでついさっき収穫したばかりのような美しいハーブの葉や花たちがつまっています。
手にしていたのは、「モヒートの香り」というブレンド。実際に入れて飲んでみると、見た目の印象と変わらず、ハーブの爽やかな香りをしっかり感じ、森にいるような、草原にいるような、とにかく植物の近くですごすあの爽やかな気持ち。
オフィスにいながらそんな気持ちになるようなハーブのストレートな味わい。決してエグみやクセがあるわけではなく、あくまでハーブの美味しいところをいただいている感覚。
名前のとおりの味わいに驚きました。
ペザンのハーブティーは、何かが違う。
しかしいったい何が?
その謎を解くために、今回、石川県のハーブ農園ペザンに伺い、農園の運営会社である株式会社ポタジェ代表の澤邉友彦さんにお話を伺いました。
株式会社ポタジェ代表 澤邉友彦さん
大平原の無農薬・無肥料・無堆肥ハーブ農園
金沢駅から車で30分ほど北上すると、遠くまで緑が広がる平原にたどり着きます。れんこんやすいか栽培などの農業や、酪農が盛んなこの土地は河北潟(かほくがた)干拓地。
ハーブ農園ペザンは、ヨーロッパの大平原を思わせるこの地の真ん中で、農薬や化学肥料、堆肥を一切使わず20種類以上のハーブを生産・加工・販売しています。
敷地内にはペザンのファンである地元の方が足繁くやってくるカフェ兼ショップ、そして、ハーブ畑と、ハーブを加工する作業場があります。
畑や作業場の作業を担うのは障害のある方々。
ペザンは設立当時から「農福連携」を掲げ、就労継続支援B型事業所としても運営されています。様々な障害・特性をもつ利用者の方々が、その特性に合わせて毎日の収穫やハーブの選別・加工などの作業に携わっているそうです。
澤邉さんによると、この「無農薬・無肥料のハーブ」と「農福連携」が密接に繋がってはじめて、おいしいハーブティーやハーブ製品を生み出せるのだそうです。
そして、その2つを繋ぐのが「フリーズドライ加工」。
「フリーズドライのハーブの魅力を伝えたいんです。」
澤邉さんは開口一番にこう言いました。
ハーブの「ラグジュアリーな魅力」を引き出すフリーズドライ
フリーズドライ加工とは、冷凍したハーブを真空状態に近い状態に置くことで水分を飛ばし、乾燥させる技術。
一般的にはハーブは熱で乾燥・加工するので、ハーブ自体もぎゅっと小さくなります。それに比べてフリーズドライではハーブに熱を加えないので、ハーブ自体の見た目もそのままに近く、味としても渋みや苦みを少なく、フレッシュなハーブ本来の味わいをストレートに楽しめるのが特徴。
多くの一流シェフ・一流ホテルが仕入れるペザンのハーブのラグジュアリーな香りと味は、このフリーズドライによって生み出されています。
「しかし、フリーズドライ加工は非常に手間のかかる方法でもあり、簡単にできることではありません。ハーブの味がストレートに出るということは、ハーブ自体のクオリティによって品質が大きく左右されるということ。それに、フリーズドライにする前の選別のプロセスも重要です。」
ペザンのハーブは無農薬・無肥料、無堆肥で栽培されていることもあり、茎や花・葉をきれいにより分けるのにも多くの手間がかかります。ペザンの畑は20年以上、無農薬でハーブが栽培されてきたためか、普通のハーブよりは虫がつきにくい強さがあるそうですが、それでも収穫したハーブの選別は手作業が必要です。
実はこの観点で、ペザン設立当初から掲げる「農福連携」が重要になってくる、と澤邉さんは語ります。
「これしか」ではなく、「これができるから」。農福連携という積極的な選択肢
ペザンでは現在、30名ほどの利用者が登録されており、現在は毎日20名ほどの利用者が農園での作業を行っています。(2025年5月現在)
フリーズドライのために細分化された工程を実現するためには、そんな利用者の皆さんの存在が欠かせないそうです。
「ハーブの品質を上げるうえでは加工の工程をどうしても細分化することになります。そのためにはマンパワーが必要であり、そこに障害者の方の活躍の場がある、と私たちは考えています。
元気に身体を動かしたい方は畑で収穫を、静かにもくもくと作業をしたい方は加工場でハーブの選別を、という形で、障害者の方の特性があればこそ、おいしいハーブを加工する工程を増やせているのです。
一方で、たとえば僕は外に出て、ペザンのハーブの良さを説明し、世に出していく役割を担っています。
障害者の方をとにかく『前』に出せばいいのかというとそうではない。
要するに、それぞれの役割分担だと考えています。特性に合う役割を通じて活躍してもらう。『これしかできない』ではなく、それぞれの『これができるから』があればこそ、ペザンのハーブが生まれるのです。」
マンパワーという観点では、とりわけ農業は特に高齢化が進み、人材不足が大きな課題になっているのは周知の事実。この現実に対して、ペザンが「農業×福祉」のリーディングケースとなり、「農福連携」がもっと広まれば、日本の農業の可能性が開けると澤邉さんは考えています。
「だから、ペザンを成功させたいんです(笑)
福祉作業所の製品だから質はそこそこでもいいとか、あるいはブランドなんかなくてもいい、ということではなくて、本当にいいもの、豊かなものが福祉作業所から生まれることをもっと多くの人に知ってほしいし、それを通じて農家の方の間で『農福連携』をもっともっと広げていきたいんです。」
こうした思いもあって、ペザンのハーブについて語るとき、澤邉さんから「ラグジュアリー」という言葉が何度も出てきます。
石川県内の新進気鋭のカフェやホテルはもちろん、東京の結婚式場「八芳園」レストランでの取り扱いや、イタリアの一流ブランド「ブルガリ」とのコラボなど、ペザンブランドは世界に広がっています。
「ハーブは体だけでなく、なにより心を豊かにするものだと考えています。だから、ペザンのハーブで豊かな、ラグジュアリーな時間を過ごしてほしい、ということを常に考えています。」
「農福連携」と「ラグジュアリー」。「福祉」と「事業」。一見交わらなそうな2つの視点が緊密に繋がっていることが、ペザンのハーブの不思議な魅力の秘密なのかもしれません。
もっと間口を広げたい。広がるペザンと「旅するハーブ」
この日、試飲させていただいたのは『モヒートミントのシロップ』で作られたモヒートのドリンク。ミントの穏やかな清涼感と程よい甘さが口いっぱいに広がります。
「『モヒートミントのシロップ』は、この夏におすすめしたい商品です。
モヒートはキューバのミントを使ったお酒。日本ではスペアミントを使う事が多いと思います。ですが、現地ではイエルバブエナというミントを使うのが一般的。うちのシロップは、このイエルバブエナを使っているので、香りが違うんです。」
冒頭で紹介したようにもともとペザンのハーブティーの中に「モヒートの香り」という定番商品がありますが、このシロップはそれまでのハーブティーの商品とは異なり、より多くの人に気軽にハーブを楽しんでもらいたいという考えのもと開発されたそうです。
シロップ自体にはアルコールは含まれていませんが、お酒で割っても美味しく飲めそうです。この日は「生レモンが嫉妬するドライレモン」というかわいいネーミングの乾燥レモンも一緒に入れていただき、暑い日にぴったりの一杯でした。
「実は、グッズで卸売をする中での気付きがこうした商品を作るきっかけになっています。
僕たちはずっとハーブが好きな人、ハーブのファンを念頭に商品を作ってきましたが、グッズを通じて僕らの想像してなかったようなお店との取引が広がりました。
たとえば、地方のモールの中の雑貨屋さんがどうやら僕らのハーブティーをリピートしてくれているらしい、と。
そこから、『ハーブティーって、もっと間口が広くていいんだ』『もっといろいろな人に楽しんでもらえそうだ』という気付きになり、多くの人に楽しんでもらえる商品が出来上がりました。
僕たちのハーブにまだまだ可能性があるということを、グッズでの出品を通じて再認識しましたね。」
「モヒートミントのシロップ」は、ペザンが展開する「旅するハーブ」シリーズのひとつ。今までのブレンドハーブティーやシングルハーブティーと違い、「ハーブのファン」でなくても日常で楽しめるような商品を、ということで企画されました。
他にも、インドのマサラチャイを独自に解釈し、ラベンダーを中心にブレンドした「ラベンダーチャイシロップ」、福井県の大麦を使用したブレンドティー「福井県ブレンド」などがラインナップ。
「旅するハーブ」シリーズはこれからも様々な土地をフィーチャーする予定とのことです。
ハーブの名前の「ゴール」と、「ハーブを超えるハーブ」
ハーブをどう楽しんでもらうか。この点についても、澤邉さんにはユニークな持論があります。
「僕は、ハーブの名前のゴールとはたとえば『果物』だと思っています。果物の味や香りって、単にハーブの名前を言われるよりもイメージしやすいですよね。そうした伝わりやすい味や香りを目指しています。
果物以外にも、何かの香りに近づけることを意識しながらブレンドを作っていますし、常に改良を続けています。」
果物といえば、ペザンのブレンドハーブティーシリーズの1つ目、「青林檎の香り」。カモミール、レモンバーベナ、レモングラスが配合されたこのブレンドは、甘みと爽やかさの絶妙な味わいが楽しめます。
「桜餅の香り」は、ラベンダーと赤紫蘇の茎を使用したほうじ茶。金沢名産の棒茶の製法にヒントを得て、茎を焙煎してほうじ茶にしたそうです。桜餅のような華やかな風味は、和菓子、特にあんこと合わせてほしい、とのこと。
さらに、これから作ってみたいと澤邉さんが語るのは、たとえば「カモミールを超えるカモミールティー」とのこと。
どういうことでしょうか?
「ペザンではシングルハーブティーも作っていますが、あるときうちのカモミールティーを飲んだ方が『こんなカモミールティー飲んだことない』とおっしゃったんです。じゃあ、その方にとってのカモミールってなんなんだ!?と(笑)
しかしふと考えてみると、シングルのカモミールよりも『もっとカモミールらしいカモミール』というか、『みんなの頭の中のカモミール』をあえてブレンドによって作り出す、なんてことも面白いのではないか、と思ったんです。」
他にも、ここには書ききれないアイデアやテーマがどんどん出てきているとのこと。
豊富なアイデアの源は何と言ってもハーブそのものから得ているそうです。
「この農園は、僕が事業承継する前からずっと無農薬でハーブを育ててきました。でも、受け継いだときは今と違ってハーブの種類は本当に少なくて、それこそラベンダーとか、それくらい。
それから時間をかけて、今は20種類以上のハーブを栽培しています。
最近は、コーラプラントというハーブを栽培してみました。このハーブも面白くて、こうやって新しいハーブに触れると色々なアイデアが出てきます。
ハーブの面白いところは、組み合わせでいくらでも新しい香りや味わいが作れること。今では、原材料としてのハーブの卸も始めましたし、カフェやレストランなどのオリジナルのハーブティー開発(OEM)のお取引も増えてきています。
こうした取り組みを通じて、ハーブをもっと身近に、日常に取り入れてもらえるようにしていきたいですね。」
まだまだ広がるペザンのハーブの世界。
一つ一つのハーブティーについても伺いたい気持ちもありましたが、時間が来てしまいました。
「では、そろそろ畑に戻ろうと思います。ゆっくりしていってくださいね!」
語り終えた澤邉さんは、休む間もなく利用者の方々が作業に取り組むハーブ畑に戻っていかれました。
ちょうどこれから6月にかけてカモミールの収穫シーズンを迎えるそうです。よく晴れた青空の下、白と黄色のカモミールの花と、利用者の方の笑顔が印象的でした。
ペザンでは、摘み取り体験やオリジナルハーブティーづくり体験なども開催しているとのこと。金沢に遊びに来たときは、ぜひ訪れてください!
≪ブランド情報≫
ハーブ農園ペザン
農園・ショップ:〒929-0328 石川県河北郡津幡町字湖東197