好評をいただいているバイヤーさんへのインタビュー企画、第5弾は「暮らしを照らす、エシカルショップ」をキャッチコピーに、エシカルなもので心地よく暮らす提案をされている「家族と一年商店」店主、中村暁野さんです。
長らく文筆家として、日々の家族のことや、エシカルな視点で見る暮らしの中での気づきを発信してこられ、2021年にECサイトを開始。3周年の昨年12月、⼭と湖に囲まれ、シュタイナー学園への入学のために移り住む人も多い神奈川県の旧・藤野町に、地域に溶け込むような小さな実店舗をオープンされています。
本特集ではそんな中村さんに、エシカルな商品への想いや仕入れのこだわり、発信の仕方やコミュニティの作り方、お客様との関わりや苦手な物事との向き合い方など多岐に渡るお話をうかがいました。
「自分が使いたいもの」という絶対的な基準で選ばれたアイテムも一部ご紹介しますので、『エシカルな商品を扱ってみたい』とお考えのバイヤーさんもぜひ参考にしてみてください!
【店主プロフィール】
中村暁野 文筆家
夫、娘、息子と共に2017年より藤野に暮らす。一つの家族を一年間に渡って取材し、一冊丸ごと一家族を取り上げる雑誌「家族と一年誌 家族」を2015年創刊。以後、様々な媒体で家族や暮らしをテーマに執筆活動を行う。
「家族」という最小単位の社会から、この大きな世界の問題を考え続けていくことを目指し、家族や環境、社会の問題について感じたこと・考えたことを発信し続ける傍ら、
2021年には暮らしを変える・築くきっかけを生むための小さなお店「家族と一年商店」をオープン。週に2日、子どもと一緒に実店舗に出ている。
【実店舗】
家族と一年商店(駅前店)
〒252-0184 神奈川県相模原市緑区小渕1696
JR中央本線「藤野駅」すぐ
基本営業日は木・金曜日の10時〜16時。(詳細はinstagramをご確認ください)
現在店内にて「Think Ethical 海について考える」展、開催中。
ー20代の頃からエシカルへの関心が高かったということで、文筆家としても発信されてきた中でECサイトをオープンされています。キッチン雑貨や日用品、食品など暮らしに欠かせない様々なものを扱われていますが、トップページのカテゴリーがテーマごとなのが印象的です。
「私は家族をテーマにこれまで執筆をしていて、自分の暮らしが変化していく姿も色んなところで書かせてもらっていて、コロナの時にどういう風に生きていくことが自分にとってしっくりくるかなと考えた時に、自分がそういう暮らしをするだけじゃなくてもうちょっと色んな人にシェアしていけたらな、仕事にできたらいいなと思ってECサイトを始めました。」
「テーマがエシカルで、”エシカルな何か”というものを発信していきたかったので、エシカルなテーマ別のカテゴリーで伝えていくことしか考えていなかったですね。」
ー昨年、現在お住まいの街、藤野に実店舗をオープンされました。ECサイトと実店舗で客層などの違いはありますか?
「ECサイトのお客様は全国ですが、店舗のほうには地域の人とか周辺の人、子育て層の女性がすごい来てくれます。買い物だけじゃなくて、お話だけして帰られる方もいらっしゃいますね。」
「サイトに来られるお客様の場合、8割ぐらいはエシカルに関心のある方という印象ですが、店舗では『こんなところにこんなお店ができたんだ』と、ふらっと入ってきてくださる人もいて、会話をしていると居合わせたお客さんも混ざって話がはずんだりして、店舗を始めて本当によかったなと思っています。」
「私や今までECサイトを利用してくれていた方には当たり前になっているようなこと、例えば、『フェアトレードってなんですか?』って聞いてくれる、ここで初めてフェアトレードということばに出会った方にどう伝えるかはとても大切だなと、改めて気付かされています。」
ー藤野は住環境の良さを求めて移住される方も多く、地域の皆さんにエシカルな考え方はフィットしやすいように感じます。店舗の内装は空間デザイナーのパートナーの俵太さんの手作りだそうですね。
「この場所は元々倉庫だったところを譲り受けて、廃棄物などを使ってお店を作りました。せっかくなら商品を購入するだけでなくエシカルについて考えたり学んだりできる場にしたいと思ったので、ワークショップやトークイベントなどもしています。」
「小さな場所からでもコミュニティを作っていくことが大切なのかなと思っていて、買い物やエシカルということだけではなくて、お互いに買い支えるじゃないですけど、そういう意識で自分の住んでいる街や場所を大事にしたいなと思うので、ここで繋がりあってすることが大事だと思ってます。」
「今はどこに行っても全国チェーンのお店があるし、そういうところに入るのは気楽だとは思うんですけど、そうじゃなくてこの街にしかないもの。『ここのコーヒーショップにしかない』とか、『スーパーにも売ってるかもしれないけどこのお店で買おう』みたいな小さいところから色々やっていると、新しい方が増えたり遠くからワークショップに来てくださったりという風に、コミュニティとして機能している気がします。」
ーこれまでの中村さんの執筆活動を見てこられたファンの方や、ECサイトのお客様が会いに来られることも多そうですね。
「そうですね。ほんとうにここまで会いにきてくれる方も多くて、効率も悪いし安いわけでもないけど、買い物してくれた後に自分の暮らしに戻っていくことに前向きになれるような、『帰ってご飯ちゃんと作ろう』って思えるようなお店になることが理想です。」
「私自身、藤野の小さいお店で買い物をした時はすごいエネルギーをもらうというか、自分の暮らしに戻っていく力をもらえるから、そういうお店にしたいなって思ってます。」
ーグッズでは一番始めにGUPPY FRIENDを仕入れられています。仕入れる際や販売の際に重視されていることはなんでしょうか?
「GUPPY FRIENDは元々取り扱いたいなと思っていて。海外の商品は、自分も使いたいし販売したいけど、どこで仕入れられるのか問い合わせ先も分からないようなアイテムが多くて、それでグッズのサイトを見ると探していていいなと思っていたものがいくつかあったのがグッズを使いはじめたきっかけです。」
「MUUT(ミュート)さんは、まだ若い方がシリアの難民を直接雇用しているブランドで推したいと思っていて。いろんな社会問題って大きい問題ばかりで心が折れそうになるというところに対して『心折れてる場合じゃないな』って、やっぱりちゃんと動いていけば世界っていうのは確実に、何かいい方向に変わるんだっていうことを思わせてもらえたので、オリーブのスプーンが可愛いとかだけじゃなくて背景も含めていろんな人に知ってもらいたいと思っています。」
「私なりに小さく世界を変えていけるはずって思える、そう感じさせてくれる方達が本当にいらっしゃるのがすごい有難いと思って。そのエネルギーをまたいい形でなんか伝えていくっていうのが私にできる一つの方法なのかなって思います。」
「ただ、ブランドの理念を見て応援したいと思うところはいっぱいあるんですけど、仕入れの際は『自分が使いたいか』という基準もすごく大事にしています。売れると思って仕入れてみて売れなかったものもありますが、自分がほしいなと思ったものは強く紹介できるのでそういう感覚を大切にしています。」
「自分のことばで伝えることを大事にしているので、商品のプライスカードも印刷物などは使わず、手書きで作ることにこだわっています。」
ー小さいお子さんもいらっしゃいますが、出荷作業以外のほとんどをご自身でされています。コラムやインスタグラムの更新もほとんど毎日ありますが、pv(閲覧数)などはチェックされているのでしょうか。
「お店を広めていくことでエシカルな消費も広がるし、本当はpvも意識したほうがいいと思うんですけど、なにせ人手が、自分と夫に手伝ってもらってるぐらいのお店なので、やりたいことの半分ぐらいしかいつもできていないというジレンマはあります。」
「ただ、あまりに小さすぎても自分のためだけになってしまうので、そういうことに強い人が加わってくれて、私一人ではできないこととか苦手な部分を一緒に考えてもらえる仲間ができたらいいなというのはずっと思っています。」
ー忙しい中で、ECサイトの管理と店舗の運営をこなしていく秘訣はありますか?
「この店は、週2日しかやらないですし、子どももいながらできるスタイルでやるという開け方で、ある意味自分本位なお店だと思います。丁寧にお客様のほうを向くことが当たり前みたいに考えられていると思うんですけど、そうじゃない、もっと矢印を自分のほうにむけていっていいんじゃないかなと最近は思っています。」
「あとは、苦手なことは手放すこと。子どものことや色々ある中で限られた時間に、苦手なことを頑張っても効果的なことができないのだったら、本当に自分の得意なこと、私にとっては書くことを一番自分のパフォーマンスがいい形で発揮できるようにしています。」
ーグッズにもエシカルな理念を掲げるブランドが増え、エシカルな消費に対する理解も少しずつですが広がってきている気がします。
「絶対に、これからどうしたって避けて通れないテーマだと思うんですけど、日本のシステムでは個人が努力しないとエシカルな暮らしみたいなものはまだすごい難しい。頑張らなきゃいけない。その時点で、多くの人がやりやすいことではないし、全然これからなんだろうなって本当に思います。」
「やんなきゃいけないとか、これをしちゃだめだとか、これはいけないことだ、だけじゃなくて、自分自身が今の方が幸せに暮らしているなと思うので、その心地よさをポジティブに伝えたい。知らない間に、生き物や自然を損ねていることもない、そういう暮らしをこれからも伝えていきたいですね。」
「暮らしに向き合うってほんといい時ばかりじゃないですし、人は裏も表もあるし私だって友達に誘われたらコストコ行きたくなる時だってあるっていうのを、昔だったらそういう部分を見られたくない気持ちがすごくあったように思います。でも今は、そういう部分も隠さなくていいし、自分の至らないところを認めて、開いて、『「私もあなたもいいところばっかりじゃないけど、こう思うってことは恐れずに言っていいんじゃないですか?』って、言えるんじゃないかと思います。」