さをり織りは、技法の名前ではなく、概念です。
それまで織物の世界は、織る前に柄を考えて、柄の出方を計算して糸を作って、その通りに織って、その中でいかに難しい模様を作るかが価値になる世界でした。
そういう価値観の中では、糸が抜けたとか、ほつれたとか、絡まった物というのはキズであり、不良品です。
ところがさをり織りでは、そこを「面白い」と捉えました。
糸がはみ出そうが、絡まろうが、ムラが出来ようが、それが個性になって、魅力になっていく。
今までの常識や既成概念から離れた、新しい視点の織物なんです。
また、即興で織っていくので、心模様が表れるとも言われています。
さをり織りの「キズを個性に変える」というのは、短所を短所として見ないということでもあります。
人の嫌なところ、無意識に悪いと決めてしまっている所も、
視点を変えたら何か違うものになるんじゃないか?
ということに気づかせてくれる。
視点を変えるというのは、不安もあります。
でもさをり織りを見れば、ひとつひとつがばらばらであっても、決まりがなくても、ふしぎと調和というのが見えてくるし、その複雑な美しさというのを体現しています。
もしかしたら調和というのは作るものでなく、自然と出来てくるものの事を言うのかもしれません。
人と人の違いを認め合い、尊重しあい、
全然違うもの同士のままでも調和する世界を作りたい。
そんな願いを、作品に込めています。